下顎嚢胞の摘出【入院全身麻酔を不希望のため、外来局所麻酔で智歯抜歯と開窓術でフォローしました!】

入院・全身麻酔での処置を不希望された患者様に、我々クリニックの歯科医師は何ができるのでしょうか? 

病態への診断・治療計画・患者様へのインフォームド・コンセント・治療方法を考えてみました。

 

 

右側下顎智歯歯冠部から右下7歯根の先端部にかけて下顎管を圧迫する透過像を認めます。このような大きな病変の多くは、大きな病院の歯科口腔外科にご紹介して全身麻酔下で手術することが検討されます。当院でも患者様には選択肢として「連携しております病院口腔外科」での処置を提案いたします。

今回の患者様はお仕事の関係から病院に入院して全身麻酔の手術はできるだけ避けたいとの事でした。そのため当院の「外来通院」で治療することをご希望されました。また右下7はできるだけ「抜歯はしたくない」とのご希望でした。そこで右下7を保存する事を前提に治療計画の検討を開始いたしました。

まづ病巣に近接している右下7の根管治療を開始しました。右下7の感染根管処置を開始しますと根管内と病変が交通するため顎骨内の病変が急性化することがあります。右側下顎部が腫脹した場合は抗菌剤・消炎鎮痛剤を投与します。

顎骨内病変については腫瘍性変化か嚢胞性変化かを鑑別するために病理組織検査を行う事としました。

 

 

 

CT所見です。

舌側の皮質骨が吸収しているのが分かります。頬側の皮質骨も一部吸収しており、智歯は下顎管と近接しており、神経・血管の損傷に気をつけなければなりません。

 

腫瘍性疾患か嚢胞性疾患かの鑑別のため病理検査をおこないました。

病変の内容物を一部摘出します。摘出内容物を診療連携しています病理検査専門のクリニックに送り検査を依頼します。

病理検査時の写真です

病理検査の結果病態は腫瘍性変化は否定され嚢胞との病理診断を得ました。 検査結果を下に患者様へ最終的な意思確認を含めて手術方針を説明します。患者様は入院全身麻酔での処置をご希望されませんでしたので、当院外来にて局所麻酔下にて右側下顎嚢胞摘出及び右下水平埋伏智歯抜歯術を実施することとしました。

患者様の術中のリスクを避けるように手術の予定を計画しました。

 

右下水平埋伏智歯は抜歯し嚢胞は可及的に全摘出。術中下歯槽神経血管束は露出しておりこれを損傷しないように丁寧に病変と分離しました。右下7歯根遠心部の病変はこれを可及的に掻爬し、創部はガーゼを留置して開窓としました。

 

 

術後の病理検査所見です。

 

 

開窓術後約2ヶ月です。摘出部内の上皮化が進まないため右下7遠心根の一部を歯根端切除して残っている嚢胞を摘出 再掻爬する必要があると考えました。患者様に再手術の必要性について説明して同意を得ることができましたので、第1回手術から3ヶ月後に2次手術をすることにしました。

 

 

第2回 手術の術中所見です。 右下7の頬側皮質骨は厚いため、右下7遠心根へのアプローチは開窓から根遠心及び歯冠部遠心上方からとしました。

不良肉芽は再掻爬し、健全骨面を露出させます。舌側の骨面は仮骨化が進んでいる事を確認しました。歯冠部を一部切除して根尖を切除しました。

術後に神経麻痺の症状はみとめません。

 

第2回手術後開窓部に上皮化がおこってきています。

 

 

右下8部の開創部に対してオブチュレーター(開創部保護のためのマウスピース)を装着して経過観察していきます。

 

 

第2回開創から4ヶ月後のパントモ写真になります。右側下顎の仮骨化が認められます。

第2回手術から4ヶ月後 創部は健全歯肉で被覆されたため仮歯を装着しました。

右下7は抜歯することなく保存することができました。再発の有無について定期的に経過観察を実施しております。

左側智歯の抜歯を行いました。右側の下顎病変部には骨化が進んでいます。経過良好です。

患者様は開窓中は週2~3回来院され、痛みにもいつも笑顔で文句も言わず耐えてくれました。患者様のご協力頑張りがないと治療は成功しません。

頑張る患者様はいつでもご支援させて頂きます。